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2 women to cry


a memorandum of dj2women
by womenscrossing

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【7】

【第7回】(2013/02/07)

麻:ねえ、どうしたのよ、月曜日の午前中に呼び出すなんて。珍しいわね。
真:忙しいところ悪いわね。
麻:べつに、大丈夫だけど。なにかあったの?
真:ちょっとね。あ、注文したら?
麻:そうねー、せっかくこのカフェ来たんだし、ブランチっぽくいこうかな。カフェオレと、クロックムッシュね。
真:いいわねー、元気ね。
麻:どうしたのよ。あら、あなた、紅茶だけなの? 珍しいじゃない。いつもスコーンくらいはつけるのに。
真:うん。紅茶もね、ミルク入れてないのよ。もちろん砂糖も。
麻:ほんとだ。なになに、なにがあったのよ。
真:なにもないのよ。だからなの。
麻:ちっともわからないわ。
真:だからね、自分の、なにもなさ加減がイヤになったのよ。
麻:なーんだ、いつもの「主婦症候群」かー。
真:ちがう! 今回はそんなんじゃないの。もっと切実なんだから。
麻:いつだって切実そうだったわよ、あなた。
真:たしかにいままでも切実だった。でもね、もう本当にだめ。
麻:それで、なにするのよ? フランス語でも習うの?
真:そんなんじゃだめ。そんなんじゃごまかせない。
麻:こないだ言ってた、主婦トモとサークル運動やるのはどうなったのよ? 楽しいって言ってたじゃない。
真:あれは楽しい。いいペースでやれてるし、これからもやれると思う。
麻:じゃあいいじゃない。
真:でもさ、やっぱり私のなかにある焦燥感は、それだけじゃ解消されないわけよ。
麻:うーん。
真:なんかさ、どうしても、ストイックさが足りないんだよね。一生をなにかにつぎ込む感覚というかさ。
麻:そんなの、ふつうはないわよ。
真:でもあなたはあるでしょ?
麻:私の場合は、どこかで「しごと」と思ってやってるところがあるから。そんな純粋な情熱とは言い切れないわね。
真:それでも十分よ。
麻:仕事をもちたいわけ?
真:そういうわけじゃない。
麻:そうよね、あなたは基本、インディーズ精神だから。
真:でもそれに甘えちゃうのよ、私。たぶん。
麻:なるほど。
真:本当のインディーズ精神ってそういうものじゃないはずなのに。
麻:わかるわかる。
真:だからね……。あ、食べなさいよ。
麻:うんうん。冷ましてるだけ。
真:もったいなーい。私なんか、口のなかヤケドするくらいの熱いの食べないと、損した気分になるけどなー。
麻:その気持ちはわかるけど、私は少し待って適温で安心していただくわね。
真:あー、わかった。この差だよ、このちがい。
麻:どういうこと?
真:私はさ、気ばかり焦って、すぐに何かおいしいものにかじりついたり、こういうふうに、ふだんとちがうシンプルな紅茶の飲みかたしたりとかするけど、結局それって自分のためになってないじゃん、みたいな。
麻:あ、なるほど、紅茶がストレートで何も食べてないのはそういうことだったわけね(笑)。
真:気づいてよ!
麻:無理よ(笑)。
真:まあとにかくそういうことよ。反対に、あなたは冷静に落ち着いて目の前の仕事に取り組める。
麻:んー、そういうことかな?
真:そうよ。やっぱりうらやましい。
麻:でもさー、かじりついて口のなかヤケドするくらいのほうがおもしろいよ。
真:おもしろくないよ。そっから先がないんだから。
麻:もちろんさ、そっから先は自分で作らなきゃだめだと思うよ。私みたいなのは、それがめんどうだから、目の前のことに冷静に向き合っちゃうのかも。だから、ストイックさみたいな話でいったら、私のほうがよっぽど後方にいるわけよ。
真:そうかー? なんかはぐらかされてるような気がするよ。……おいしい?
麻:うん。おいしいおいしい。なかなか食べないもんねー、クロックムッシュ。こういうところで平日の午前中にいただくなんて、いいわねー。楽しい。
真:もう、自分ばっかりエンジョイして。
麻:なんで怒られなきゃいけないのよ、呼び出されておいて(笑)。
真:じゃあねー、私だってスコーン食べるわよ。
麻:食べなさいよ。
真:すみませーん。スコーン追加。
麻:で、問題は解決したの?
真:わかんないわよ、そんなの。
# by womenscrossing | 2013-02-06 23:59 | [連載]南青山五丁目午前十時

八神純子による“ブルー”と渡辺真知子による“思い出は美しすぎて”


# by womenscrossing | 2013-01-24 00:21 | メモ

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【6】

【第6回】(2012/12/11)

真:はあーっ、久しぶりね。あなたとここに来るの。
麻:そうね。あなたはダンナとちょくちょく来るんだろうけど、私はずいぶんご無沙汰ね。
真:ここ、いいよね。表通りに面してるのに、すごく落ち着く。
麻:料理も美味しいしね。スペイン料理って、必要以上に気どった店があるけど、ここは、南青山のお店なのに、全然気どらなくっていいわ。
真:でもさー、もう12月だよ。見てよ、外、あんなに寒そう。
麻:でも、私は、これくらい、思いっきり寒いほうが好きだわ。見てよ、道の光もきれいに見えるでしょ。
真:やめてよー。あー、これがクリエイターと主婦の差だ。また見せつけられた。
麻:(笑)。ほら、デザートのアイス溶けるわよ。
真:んー、不思議ね。いまあんなに寒いのやだって言ったのに、アイスは食べたい。冷たいのがいい!
麻:(笑)。主婦のかたって、本当にいろいろお悩みが多くてたいへんね。
真:どういたしまして。
麻:ねえ、私さ、もう一杯ワイン飲んでいい?
真:いいわよ。飲みなさいよ。ストレスたまってるの?
麻:いいえ。寒い風景を見てうれしくなったら、ちょっと酔いたくなってね。
真:粋ねえー、あなた。
麻:クリエイターですから。
真:はいはい。
麻:あなたは飲まないの?
真:私はいい。エスプレッソで。
麻:そうか。おもしろいわね。あなたのほうがお酒強いのに。
真:家ではよく飲むんだけどさ。なんか私さ、いいお店に来て、せっかくだからいいお酒いっぱい飲もう!って思うんだけどさ、なんかその場になると、急に落ち着いちゃうの。へんね。
麻:でもそれ、なんとなくわかる。私は逆。別にお酒なんて全然興味ないし、ふだんはまったく飲まないのに、外でふとした拍子にぱっと頼んじゃうの。
真:おもしろいね。無意識の「日常」の捉えかたが違うのかな。
麻:それは前から思ってたけど。でも分析するほどのもんじゃないしね。こういう些細な凹凸【おうとつ】みたいな噛み合わせが、いつまでも私たちが楽しくつるんでられる要因なんじゃないの。
真:そうね。この店も、ダンナと来るよりあなたと来たほうが楽しい。
麻:私も、一度仕事でお世話になってるかたと来たけど、あんまり楽しくはならなかった。
真:男性?
麻:まあね。でもどうにもなってないわよ。お食事会としては、ふつうに、なんというか、たんたんとね、まあまあいい感じではあったけど。そのときはお酒飲もうなんて思わなかった。
真:そうか。
麻:……。
真:ああ、このBGMいいなー。ちょっと昔のAOR。
麻:スペインの人がカヴァーしてるのかな?
真:どうなんだろうねー。でも何にしても、合ってる。いまのこの空気に。
麻:そうね。あとでちょっと歩こうか。遠回りになるけど、帰り。
真:いいよー。どっち側?
麻:根津美術館に沿って。
真:ああ、はいはい。いいよね、あの道、夜遅くは特に。
麻:いっつもあの道通るときはタクシーだからさ。今晩くらいは雰囲気出して。
真:相手は私だけどね(笑)。
麻:だからいいのよ。でもワインゆっくり飲みたいからちょっと待ってよ。
真:はいはい。なんか子どもみたいね、今晩のあなた。
麻:……。
# by womenscrossing | 2012-12-11 23:33 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【5】

【第5回】(2012/10/13)

真:ねえねえ、あのさ、ただの主婦であるこの私がさ、いまインディーズのニューウェーブ・スピリットをもって行動するって、どういうことだと思う?
麻:なによ、突然。どうしたのよ。
真:ふとさ、気になったのよ。というより、いきなり湧き上がってきたのよ、焦りが。
麻:だってあなた、きのう今日主婦になったわけじゃないでしょ。なんでいまなのよ。
真:わからないわよー。さいきん80年代の音源をいろいろ聴いてるからかな。それがじわじわ効いてきちゃったのかな。
麻:そもそもインディーズもニューウェーブもとうに死語でしょ。ニューウェーブ・リバイバルだって死語よ。
真:わかってるわよ、それくらい。でもしょうがないじゃん、私たちの若い頃って、そういう時代だったんだから。
麻:でもなんでいまそんな問題意識もたなきゃなんないわけ?
真:なんだろ、このままじゃ私なんにもできずに終わっちゃう感、っていうの?
麻:あなた、そういう自意識だけはあいかわらずね。
真:ええ、そうよ、所詮つまらない自意識よ。あなたと初めて会った高校1年の頃からなんにも進歩してませんわよ。
麻:ほんとね。
真:あなたはさ、なんだかんだいってクリエイティブな仕事してるからそんなこと考えなくていいんでしょ。
麻:別にアーティスト精神なんてかけらもないけどね、いまは。ただ、良くも悪くも、そういう業界に片足突っ込んでることはたしかだから、否定はしないけど。
真:でしょう? あなた贅沢よ。
麻:専業主婦に言われたくないわよ。
真:たしかにね。でもダメ。あなたのほうがいい。
麻:好きにしたら。で、どんな表現とやらをするのよ。
真:それが何にも思い浮かばないから訊いたんじゃないの。やっぱとりあえずお店やるか? ちょっと田舎のほうにでも行って。
麻:いかにも都会のつまらない主婦らしい発想ね。
真:そうね。
麻:ジン作ったら?
真:それも考えた。でもこれっていうアイデアがない。
麻:ニューウェーブなこと考えなさいよ。インディーズっぽく。
真:無理よ! なにそれ。
麻:あんたが言ったんじゃないの。
真:もうさ、こうなったらさ、とことんバカみたいな主婦やるか。近所の主婦トモ巻き込んで。
麻:それやんなさいよ、それニューウェーブよ。インディーズよ。
真:そうか。それか。
麻:そう。で、誰かの家で、売りもしない手芸作品とか、詩を手書きで書いてコピーして綴じたやつとか、そんなもんばっか作って、プレゼントしあうの。全部ダンナに内緒で。
真:それすごい! とんがってる。かっこいい。
麻:どう? 満足?
真:まあ、やってみたら絶対うまくいかないだろうけど、それいくわ。
麻:いいのよ、ダメならやめれば。そんなもんでしょ。
真:そんなもんね。そうそう。▲
# by womenscrossing | 2012-10-13 23:49 | [連載]南青山五丁目午前十時

「丹阿弥谷津子さん」(1952年『アサヒグラフ』記事)

■丹阿弥谷津子さん(27*)
東京生れ 都立第十高女卒後 文化学院文学部に籍をおく傍 文学座研究生となる 初放送はその直後「ラジオ・ドラマ」女中の役でセリフ五つ その頃は動作が伴わないとセリフがでないので台本を手放し「プロデューサーをあわてさせた」民間放送発足以来 あちこちに引つぱり出され 平均週五回という活躍「名前が印象的なので 沢山でてるように思われるが実はそれ程でもない」現在「エンゼル・クイズ」(ラジオ東京)「天の夕顔」(文化放送)に毎週出演の外ドラマにも度々でている 初めはアルバイトの気持でやつていたが今はラジオなりの技巧に興味をもち 舞台の勉強にもなるので「大いにいそしんでいる」ラジオだと艶つぽい声を出すといわれるのはマイクでは声をおとすので落着いた声に聞えるのと 舞台では「その童顔ゆえに」中々艶つぽい役を与えられないことによる お婆さんの声をだした時は 自分できいていて さすがに面映ゆかつた由▲

出典:『アサヒグラフ』1952年9月17日号,25頁《告知板 新進ラジオ・スター》

* この時点(1952年9月17日)では正確には28歳。
# by womenscrossing | 2012-10-10 22:40 | 丹阿弥谷津子さん