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カテゴリ:[連載]南青山五丁目午前十時( 18 )

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【8】

【第8回】(2013/09/30)

麻:ああ、気持ちいい、澄んだ秋の夜風。
真:昼もいいけど、夜の神宮外苑は本当に落ち着けるよね。
麻:ぐっとディープに。
真:そう。でもからっとしてて。さっぱりしてて。
麻:ぱきっとしてる。
真:うん、明暗のコントラストがね。それがいい。
麻:あれ、どこの光線かな。神宮球場?
真:えー、今日試合はないでしょ。こんなに人がいないんだから。
麻:そうか。じゃあわかんないな。でもきれいだね。
真:「カクテル光線」っていい言葉だよね。
麻:ねー、夢がある。
真:ムードがある。
麻:都会、ってかんじね。
真:都会育ちの私たちがこんなこと言ってちゃダメだよね、本来は(笑)。
麻:いいじゃんいいじゃん、たまには素直に、さ。
真:あ、いまの車……。
麻:どうしたの?
真:ずーっと昔、ちょっと気になった人が乗ってた車と同じだったかも。
麻:外国のクラシックカーね。
真:そう、私、クルマ音痴だから車種とか全然わからないんだけど。ひょっとしたら、見間違えかもしれない。
麻:その人の車、乗ったの?
真:ううん。そういうお付き合いはしなかった。ただね、おぼろげな記憶なんだけど、休日に神宮外苑を散歩してたら、その人がその車を脇に寄せて、声をかけてきたことを思い出した。
麻:ナンパ?
真:ちがうちがう。たしか友だちの個展の会場かなにかで一度紹介されて。芸大を出て、デザインの仕事を始めたって言ってたかな。それで、外苑をドライブしてたら、偶然私を見つけたんだって言って。
麻:それなら、そこで乗ってあげればよかったのに。
真:いま思えばそうなんだけど、若い頃は変につっぱった意識があったから、そんなかんたんに男の車に乗るかって思ってたんじゃないかな。でもね、その人たしか、「乗ったら?」とか誘ってこなかった気がするんだ。
麻:ふーん。
真:うん、そうだ。「偶然ですね」「気持ちいいですね」「僕もここ好きなんです」なんて話だけして「じゃあまた」ってすぐ行っちゃった気がする。それで私、おもしろい人だな、話してて気持ちのいい人だな、って思ったこと、いま思い出した。
麻:で、その人とはそれから会ったの?
真:ううん、それが、それっきり。またどこかで会うだろう、って思ってたら、もうそれっきり会うことなかったの。
麻:へえー。それ、いまのダンナと出会う前の話?
真:そうね、出会うほんのちょっと前。
麻:そうかー。でもそれ、すてきな関係だね。
真:うん。恋ともいえないし、でもなんだかうれしい気分になる、いい思い出。
麻:結婚前の、最後のミラクルだったのかな。
真:あとからこじつければね(笑)。
麻:なんかさ、この歳になると、そういう思い出が、これ以上なく愛おしい、大切な、美しいものに思えてくるよね。
真:そう、それが歳をとってよかったなー、って実感すること。
麻:きっとその男の人も、同じように思ってるよ。
真:そうだといいね。
麻:ねえ、さっきの車、その人だったんじゃないの?
真:やめてよー、もう(笑)。
麻:あはは。こんないい夜にはさ、何が起こるかわからない。
真:でもその思い出を思い出しただけで十分。それだけでミラクル。
麻:そうだね。♪カクテル光線に酔いしれてミラクル~。
真:なにそれ? 誰の歌?
麻:私がいま作った!
真:ばっかみたいー(笑)。もう……、なんかお腹すいた!
麻:よし、バー行ってカクテル飲んでピザでも食べるか!
真:えー、そんながっつりいかない。カフェでケーキ。
麻:はいはい。おとなしくそうしましょ。
真:甘いもの食べたいのよ。……甘い思い出とは関係ないわよ!(笑)
麻:ちょっとー、私、クリエイターですから、そんな陳腐な発想しません!
真:なによ、えらそうに!
麻:ほらほら、急がないとラストオーダーになっちゃうわよ。
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by womenscrossing | 2013-09-30 22:30 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【7】

【第7回】(2013/02/07)

麻:ねえ、どうしたのよ、月曜日の午前中に呼び出すなんて。珍しいわね。
真:忙しいところ悪いわね。
麻:べつに、大丈夫だけど。なにかあったの?
真:ちょっとね。あ、注文したら?
麻:そうねー、せっかくこのカフェ来たんだし、ブランチっぽくいこうかな。カフェオレと、クロックムッシュね。
真:いいわねー、元気ね。
麻:どうしたのよ。あら、あなた、紅茶だけなの? 珍しいじゃない。いつもスコーンくらいはつけるのに。
真:うん。紅茶もね、ミルク入れてないのよ。もちろん砂糖も。
麻:ほんとだ。なになに、なにがあったのよ。
真:なにもないのよ。だからなの。
麻:ちっともわからないわ。
真:だからね、自分の、なにもなさ加減がイヤになったのよ。
麻:なーんだ、いつもの「主婦症候群」かー。
真:ちがう! 今回はそんなんじゃないの。もっと切実なんだから。
麻:いつだって切実そうだったわよ、あなた。
真:たしかにいままでも切実だった。でもね、もう本当にだめ。
麻:それで、なにするのよ? フランス語でも習うの?
真:そんなんじゃだめ。そんなんじゃごまかせない。
麻:こないだ言ってた、主婦トモとサークル運動やるのはどうなったのよ? 楽しいって言ってたじゃない。
真:あれは楽しい。いいペースでやれてるし、これからもやれると思う。
麻:じゃあいいじゃない。
真:でもさ、やっぱり私のなかにある焦燥感は、それだけじゃ解消されないわけよ。
麻:うーん。
真:なんかさ、どうしても、ストイックさが足りないんだよね。一生をなにかにつぎ込む感覚というかさ。
麻:そんなの、ふつうはないわよ。
真:でもあなたはあるでしょ?
麻:私の場合は、どこかで「しごと」と思ってやってるところがあるから。そんな純粋な情熱とは言い切れないわね。
真:それでも十分よ。
麻:仕事をもちたいわけ?
真:そういうわけじゃない。
麻:そうよね、あなたは基本、インディーズ精神だから。
真:でもそれに甘えちゃうのよ、私。たぶん。
麻:なるほど。
真:本当のインディーズ精神ってそういうものじゃないはずなのに。
麻:わかるわかる。
真:だからね……。あ、食べなさいよ。
麻:うんうん。冷ましてるだけ。
真:もったいなーい。私なんか、口のなかヤケドするくらいの熱いの食べないと、損した気分になるけどなー。
麻:その気持ちはわかるけど、私は少し待って適温で安心していただくわね。
真:あー、わかった。この差だよ、このちがい。
麻:どういうこと?
真:私はさ、気ばかり焦って、すぐに何かおいしいものにかじりついたり、こういうふうに、ふだんとちがうシンプルな紅茶の飲みかたしたりとかするけど、結局それって自分のためになってないじゃん、みたいな。
麻:あ、なるほど、紅茶がストレートで何も食べてないのはそういうことだったわけね(笑)。
真:気づいてよ!
麻:無理よ(笑)。
真:まあとにかくそういうことよ。反対に、あなたは冷静に落ち着いて目の前の仕事に取り組める。
麻:んー、そういうことかな?
真:そうよ。やっぱりうらやましい。
麻:でもさー、かじりついて口のなかヤケドするくらいのほうがおもしろいよ。
真:おもしろくないよ。そっから先がないんだから。
麻:もちろんさ、そっから先は自分で作らなきゃだめだと思うよ。私みたいなのは、それがめんどうだから、目の前のことに冷静に向き合っちゃうのかも。だから、ストイックさみたいな話でいったら、私のほうがよっぽど後方にいるわけよ。
真:そうかー? なんかはぐらかされてるような気がするよ。……おいしい?
麻:うん。おいしいおいしい。なかなか食べないもんねー、クロックムッシュ。こういうところで平日の午前中にいただくなんて、いいわねー。楽しい。
真:もう、自分ばっかりエンジョイして。
麻:なんで怒られなきゃいけないのよ、呼び出されておいて(笑)。
真:じゃあねー、私だってスコーン食べるわよ。
麻:食べなさいよ。
真:すみませーん。スコーン追加。
麻:で、問題は解決したの?
真:わかんないわよ、そんなの。
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by womenscrossing | 2013-02-06 23:59 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【6】

【第6回】(2012/12/11)

真:はあーっ、久しぶりね。あなたとここに来るの。
麻:そうね。あなたはダンナとちょくちょく来るんだろうけど、私はずいぶんご無沙汰ね。
真:ここ、いいよね。表通りに面してるのに、すごく落ち着く。
麻:料理も美味しいしね。スペイン料理って、必要以上に気どった店があるけど、ここは、南青山のお店なのに、全然気どらなくっていいわ。
真:でもさー、もう12月だよ。見てよ、外、あんなに寒そう。
麻:でも、私は、これくらい、思いっきり寒いほうが好きだわ。見てよ、道の光もきれいに見えるでしょ。
真:やめてよー。あー、これがクリエイターと主婦の差だ。また見せつけられた。
麻:(笑)。ほら、デザートのアイス溶けるわよ。
真:んー、不思議ね。いまあんなに寒いのやだって言ったのに、アイスは食べたい。冷たいのがいい!
麻:(笑)。主婦のかたって、本当にいろいろお悩みが多くてたいへんね。
真:どういたしまして。
麻:ねえ、私さ、もう一杯ワイン飲んでいい?
真:いいわよ。飲みなさいよ。ストレスたまってるの?
麻:いいえ。寒い風景を見てうれしくなったら、ちょっと酔いたくなってね。
真:粋ねえー、あなた。
麻:クリエイターですから。
真:はいはい。
麻:あなたは飲まないの?
真:私はいい。エスプレッソで。
麻:そうか。おもしろいわね。あなたのほうがお酒強いのに。
真:家ではよく飲むんだけどさ。なんか私さ、いいお店に来て、せっかくだからいいお酒いっぱい飲もう!って思うんだけどさ、なんかその場になると、急に落ち着いちゃうの。へんね。
麻:でもそれ、なんとなくわかる。私は逆。別にお酒なんて全然興味ないし、ふだんはまったく飲まないのに、外でふとした拍子にぱっと頼んじゃうの。
真:おもしろいね。無意識の「日常」の捉えかたが違うのかな。
麻:それは前から思ってたけど。でも分析するほどのもんじゃないしね。こういう些細な凹凸【おうとつ】みたいな噛み合わせが、いつまでも私たちが楽しくつるんでられる要因なんじゃないの。
真:そうね。この店も、ダンナと来るよりあなたと来たほうが楽しい。
麻:私も、一度仕事でお世話になってるかたと来たけど、あんまり楽しくはならなかった。
真:男性?
麻:まあね。でもどうにもなってないわよ。お食事会としては、ふつうに、なんというか、たんたんとね、まあまあいい感じではあったけど。そのときはお酒飲もうなんて思わなかった。
真:そうか。
麻:……。
真:ああ、このBGMいいなー。ちょっと昔のAOR。
麻:スペインの人がカヴァーしてるのかな?
真:どうなんだろうねー。でも何にしても、合ってる。いまのこの空気に。
麻:そうね。あとでちょっと歩こうか。遠回りになるけど、帰り。
真:いいよー。どっち側?
麻:根津美術館に沿って。
真:ああ、はいはい。いいよね、あの道、夜遅くは特に。
麻:いっつもあの道通るときはタクシーだからさ。今晩くらいは雰囲気出して。
真:相手は私だけどね(笑)。
麻:だからいいのよ。でもワインゆっくり飲みたいからちょっと待ってよ。
真:はいはい。なんか子どもみたいね、今晩のあなた。
麻:……。
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by womenscrossing | 2012-12-11 23:33 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【5】

【第5回】(2012/10/13)

真:ねえねえ、あのさ、ただの主婦であるこの私がさ、いまインディーズのニューウェーブ・スピリットをもって行動するって、どういうことだと思う?
麻:なによ、突然。どうしたのよ。
真:ふとさ、気になったのよ。というより、いきなり湧き上がってきたのよ、焦りが。
麻:だってあなた、きのう今日主婦になったわけじゃないでしょ。なんでいまなのよ。
真:わからないわよー。さいきん80年代の音源をいろいろ聴いてるからかな。それがじわじわ効いてきちゃったのかな。
麻:そもそもインディーズもニューウェーブもとうに死語でしょ。ニューウェーブ・リバイバルだって死語よ。
真:わかってるわよ、それくらい。でもしょうがないじゃん、私たちの若い頃って、そういう時代だったんだから。
麻:でもなんでいまそんな問題意識もたなきゃなんないわけ?
真:なんだろ、このままじゃ私なんにもできずに終わっちゃう感、っていうの?
麻:あなた、そういう自意識だけはあいかわらずね。
真:ええ、そうよ、所詮つまらない自意識よ。あなたと初めて会った高校1年の頃からなんにも進歩してませんわよ。
麻:ほんとね。
真:あなたはさ、なんだかんだいってクリエイティブな仕事してるからそんなこと考えなくていいんでしょ。
麻:別にアーティスト精神なんてかけらもないけどね、いまは。ただ、良くも悪くも、そういう業界に片足突っ込んでることはたしかだから、否定はしないけど。
真:でしょう? あなた贅沢よ。
麻:専業主婦に言われたくないわよ。
真:たしかにね。でもダメ。あなたのほうがいい。
麻:好きにしたら。で、どんな表現とやらをするのよ。
真:それが何にも思い浮かばないから訊いたんじゃないの。やっぱとりあえずお店やるか? ちょっと田舎のほうにでも行って。
麻:いかにも都会のつまらない主婦らしい発想ね。
真:そうね。
麻:ジン作ったら?
真:それも考えた。でもこれっていうアイデアがない。
麻:ニューウェーブなこと考えなさいよ。インディーズっぽく。
真:無理よ! なにそれ。
麻:あんたが言ったんじゃないの。
真:もうさ、こうなったらさ、とことんバカみたいな主婦やるか。近所の主婦トモ巻き込んで。
麻:それやんなさいよ、それニューウェーブよ。インディーズよ。
真:そうか。それか。
麻:そう。で、誰かの家で、売りもしない手芸作品とか、詩を手書きで書いてコピーして綴じたやつとか、そんなもんばっか作って、プレゼントしあうの。全部ダンナに内緒で。
真:それすごい! とんがってる。かっこいい。
麻:どう? 満足?
真:まあ、やってみたら絶対うまくいかないだろうけど、それいくわ。
麻:いいのよ、ダメならやめれば。そんなもんでしょ。
真:そんなもんね。そうそう。▲
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by womenscrossing | 2012-10-13 23:49 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【4】

【第4回】(2011/02/27)

真:ねえ、最近さ、なんか反抗してる?
麻:なによ、いきなり。
真:だって、私たち、「おとなの言うこときかない少女ふたり組み」だったじゃない。
麻:いつの話よ(笑)。
真:なによ、笑うことないじゃない。そりゃあ、もう20年近く前のお話しですけど。
麻:もちろん覚えてるわよ。あなた私にしつこく言ってたものね。「日本のストロベリー・スウィッチブレイドになろうって」(笑)。
真:そうよ。そうですわよ。あなたが拒否し続けたんじゃない、それ。
麻:そりゃ、わたくし、趣向がちがいましたからね、あなたとは。
真:そうそう。あなたはKLFひと筋でしたものね。さすが、クリエイターになるおかたのセンスはちがうわよね。
麻:私だって好きだったわよ、ストロベリー・スウィッチブレイド。でも、あなたとふたりであれ目指すのはちょっとなんだか……、そのまま過ぎるって思ってさ。
真:何度もやったわよね、このやりとり。結局私が根負けしてなんにもならなかったわけだけど。
麻:あなた、まだそのこと根にもってるの?
真:いや、そうじゃないけどさ。でもやるんならあなたとしかない、ってあの当時は強く思ってたの。
麻:それはありがとう。光栄だわ。
真:やってたら何か変わってたかな? 私とあなた。
麻:さあ。「青春のいちページ」以上のものになったかどうかは、はなはだ疑問ね。
真:私はさ、いまから思えば「青春のいちページ」でもよかったよ。でもあのときは、これで自分を変えるんだ、そして世の中変えるんだ、くらいに思ってたからね。だから、あなたに断られ続けて、「じゃあもうだめだ、なにもかも」ってなっちゃった。ゼロか100しかなかったの。
麻:若い頃だものね。まあ、甘えといえば甘えだけど。
真:わかってるわよ、もちろん。甘えよ。
麻:責めてるわけじゃないのよ。
真:それもわかってる。
麻:でもね、何もできなかったって思ってるいまのほうが、当時の私たちより、ずっと「反抗する少女」に近いのかもしれないよ、実は。
真:なんとなくわかるのよ、それ。でも、言葉に出してしまうと、言い訳になってしまいそうでね。特に私はさ、主婦なわけでさ。
麻:そういう次元のことじゃないこと、わかってるでしょう?
真:うん……。
麻:いいのよ、それで。それ以上考えないの。
真:わかった。私は、これで、オッケー。
麻:そう。それがいまのあなた。そしていまの私。そこからよ、すべては。
真:またこの話、していい?
麻:いいわよ。どんどんしましょう。これからの私たちのためにね。▲
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by womenscrossing | 2012-01-28 23:49 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【3】

【第3回】(2011/02/01)

真:ねえちょっと、このディスプレイ、すてきじゃない?
麻:どれどれ……。うん、たしかにね。まあ、かなりクオリティは高いわね。
真:やっぱり専門家はきびしいなー(笑)。
麻:そういう意味で言ってるんじゃないのよ。どう言ったらいいのかな。この街を歩いていたら、それなりにクオリティの高い、すてきなセンスの、最新のモードのものはいくらだって目に入るじゃない。でも、いや、「だから」というべきなのかな、もうなんだかそういうものに価値を見い出す意味がわからなくなってきたのよ。みんな、一歩でも早く、一歩でも先に、山の頂上に近づこうと切磋琢磨してるでしょ。それはそれで立派な競争なんだろうとは思うわ。でもね、やっぱり、それは結局、ある特定の山の中で一歩二歩を競い合ってるにすぎない。隣にまた別の山があることや、山の頂上のさらに上にはどんな世界があるのかなんてことは、そこで競い合ってる人たちにはきっと意識されてないんだろうなーって思うの。いったんそう気づいてしまうと、一見華々しいその世界が、急に色あせて見えてしまうのよ。
真:隣の山とか、頂上の上とかっていうのは、必死になって登っている人よりも、平地の地面に立って見ている人のほうがよく見えるのかもね。
麻:そういうことね。たとえば、東京スカイツリーがこの先何メートル伸びようと、どんな機能や装飾がつこうと、私にとってはどうでもいいのよ。スカイツリーの足元に、どんな道や水路があって、どんな生活があるのか、その質感のほうが気になるわ。
真:うふふ、もちろんわかるけどさ、でもやっぱりあなたのその趣向、「贅沢」なんじゃなあい?
麻:ふう、やられたわね。なんとでも言ってよ(笑)。▲
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by womenscrossing | 2012-01-28 23:49 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【2】

【第2回】(2011/01/30)

麻:あら、あんなところにあんなビル、あったかしら。
真:なに言ってるの、いまごろ。あなた、やっぱり仕事に生きる女ね。街の変化なんて、全然気がつかないんだから。
麻:興味のないものには気づかない、だけよ。
真:じゃああなた、この街のどこに興味があるの?
麻:難しいわね。私だって、昔からこの街に住み続けてきた住人ではないから、古き良き街の姿を懐かしむ、なんてことはできないわ。そうね、私に見えている街っていうのは、やっぱり私がこうあってほしい姿なのよ。新しくて軽薄な、余計なものはほしくない。でも私には理解できない古い風情の名残りも、いまいち存在の意味を感知できない。そういうことが反映されてるんじゃないかしら。
真:クリエイターらしいご意見ね。
麻:ありきたりな皮肉はやめてよ。むしろそういう面では、あなたのほうが感傷家さんでしょ。
真:たしかにそんな面はあったわ。いまでもあると思う。生まれた場所への執着とか憧憬ってやつね。でもねえ、この街については別。いったんこういう街のルールや流れに身体が慣れてしまうと、もう自然となんの感情もわかなくなるのよ。風景が変わった、それだけのこと。気づくけれど気づくだけ。そこに意味なんて見い出せないわ。
麻:そういう感覚って、ある意味贅沢なものかもしれないわ。逆にニュータウンに移り住んだ人なんか、最初はどうかしらないけど、年月が経つとなんでもない無機的な光景に愛着がわくことがあるんじゃないかしら。
真:うーん、贅沢、か。そんな贅沢も、やっぱりありがたいことなのかな。わからないわ(笑)。▲
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by womenscrossing | 2012-01-28 23:48 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【1】

【第1回】(2011/01/28)

真:ねえ、さいきんどんな感じ?
麻:なによ、それ。そんな久しぶりでもないのに。一週間前もこの店で会ったばかりじゃない。
真:いや、だけどさ、ほら、私なんて特になにもないからさ。
麻:子なしの専業主婦なんてそんなもんだから、っていうんでしょ、また。
真:前も言ったっけ。いっつも言ってるか、それ。
麻:私だってそんなにおもしろい話なんてないわよ、別に。仕事だって、ひとりでやってるんだし。あなたのほうが、まだダンナさんといっしょにいるんだから、なにかあるでしょ。
真:ないない(笑)。微妙に仲がいい夫婦ってね、なんにもないのよ。恋心もケンカもないなんて、つまんないよー。
麻:別にいいじゃない、それでいいって思ってるんだから。
真:あなただって、いくらでも付き合おうと思えばそうなれる人、いっぱいいるのに、あえてそうしてないのは、それでいいって思ってるんでしょ。
麻:まあね、めんどくさいから。
真:わかるー。私もそうすりゃよかったかな。それであなたみたいにさ、ひとりでクリエイティブな仕事するの、小さくてもいいからひとりで住む部屋借りて。
麻:私が言うのもイヤミっぽいかもしれないけど、そんな簡単じゃないわよ。
真:そうよね。私だって、ダンナが家賃払ってくれてるから好きにできてるだけだからねー。才能ったってねー、趣味のイラストくらいじゃね。あ、まただー。私さ、この店でカフェオレ飲むときさ、砂糖の入れ具合がいっつも困るんだよねー。ほら、ここ角砂糖じゃない。スティックだと何分目までって、入れるとき調節できるんだけどさ、角砂糖って入れるときどうしようもないじゃん。で、あー、全部溶けちゃったら甘すぎるのにーって、入れてから思っても、どんどん溶けていってどうしようもなくて、結局全部溶けちゃったやつを飲むの。いっつもね。またやっちゃった。
麻:いいじゃない、別にそれくらい。気にするほどのことじゃないでしょ。
真:気にするほどのことじゃないから気にしちゃうんじゃないー。
麻:そんなもんか。そんなもんね。▲
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by womenscrossing | 2012-01-28 23:48 | [連載]南青山五丁目午前十時