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by womenscrossing
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カテゴリ:[連載]南青山五丁目午前十時( 18 )

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【17】

【第17回】(2016/08/18)

麻:うわー、予想以上の汗! マンガみたい(笑)。
真:はい、ただいま日課完了。
麻:もう外苑西通りスプリントのスペシャリストね。
真:今日は東通りもセットで。
麻:ひゃー、最上級の試練ね。
真:だってこれくらい灼熱じゃないとね、挑みがいがないから。
麻:まあ、中途半端なぬるい暑さがキライなあなたと私の価値観なら、そうなるわよね。このぱきっとした条件をピンポイントで捉えて。
真:たまにはちょっと無理もしとかないと、カラダが甘えちゃうからね。
麻:ストイック(笑)。でも案の定、メイク全部落ちてるよ。
真:最初からすっぴんよ。
麻:えー、さすが。
真:だって支障ないでしょ。
麻:まあね。いまこのカフェですっぴんなのは間違いなくあなただけだと思うけど。
真:ネイティブだからいいのよ!
麻:もちろん。
真:あなたは初日しか来てくれないわね。
麻:別に、忙しいわけじゃないんだけど、なんとなく、一人のほうがいいのかなと思って。
真:やっぱりわかってた。実は、一人のほうが自分のペースで動けていい。
麻:でもたまには来てよ、でしょ?
真:そのとおり。
麻:じゃあ、37℃くらいのときに行くわよ、ふらっと(笑)。
真:あー、それ大歓迎ね。
麻:そういえば、外苑前の角に新しくできたジェラート屋、行った?
真:行った。でもあれね、灼熱のなか疾走してきて、冷房が効いた店でジェラートって、なんかちがうんだよね。
麻:そう言うと思った。やっぱり今日もホットのハーブティーだもんね。
真:いくら味がよくても、そう感じちゃった瞬間に冷めちゃう。
麻:そうね。じゃあ私は仕事のあいまに行ってみるわ。
真:それなら楽しめるかも。わたし的には可もなく不可もなくな感じ。
麻:まあ、いまあのへんにできる新しい店なんて、そんなもんでしょ。
真:そうよねー。この店には長持ちしてもらわないと。
麻:あ、そうそう、5年前くらいにあなたに紹介したあの辻堂のカフェね、こないだ閉めたんだって。
真:そうか、わたし結局1回しか行かなかったな。
麻:んー、そうね、あなたがそんなにハマる感じじゃなかったね。
真:そういう店多いのよー、私(笑)。
麻:わかってる(笑)。でもそれいい性格だよ、何度も言ってるけど。
真:でしょー(笑)。あ、そろそろシャワー浴びに帰らないと。またね。
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by womenscrossing | 2016-08-18 23:03 | [連載]南青山五丁目午前十時

【設定】南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し

◆形態
40代前半(197x年生まれ)の女ふたりによるダイアローグ
◆人物
◇真利子: 主婦(子なし)
◇麻美: 独身クリエイター
*ふたりは高校以来の旧友
◆場所・時間
基本はタイトル通りだが、回によって変動する。
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by womenscrossing | 2016-05-18 23:24 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【16】

【第16回】(2016/05/06)

麻:あ、おはよう……って、なにそれ、かっこいいじゃない! ランニングタンクトップだ。
真:そう! 買っちゃった。
麻:走ってきたの?
真:ううん。自転車。外苑東通りを。
麻:そのタンクトップ一丁で!?
真:そうよ。だってほかに何も着てないでしょ?
麻:やるわねー。あいかわらず。
真:でもわかるでしょ?
麻:もちろんわかるけどね。あなたがそうするのは。で、一応月並みなこと訊いておくけど、寒かったでしょ? 朝の8時じゃ。
真:そりゃ寒かったよ。だから気持ちよかった。
麻:でしょうね。うん、やっぱり筋が通ってるね。
真:まあ、こんな季節になっちゃったら、こうするしか楽しみはないでしょ。
麻:ちょうどGWも明けて、人も少ないしね。
真:そう、やっと私たちにとっての地獄のような日々から解放されたんだから、これくらい思い切ったことしないと。
麻:そうよねー。まあ私は家のベランダでハーブティー飲んでたけど。
真:あなたはそれでいいのよ。私はさ、これくらいしないと……、衝動がね。
麻:抑えられないよね。わかるわかる。私だって気持ち的にはそうしたいよ。タンクトップ一丁かどうかはともかく(笑)。
真:ま、私もね、今日一回やっちゃえばもういいんだけど。基本。
麻:まあね。暑くなってからそれやってもね。
真:やれないよー、そんな野暮なこと。
麻:うんうん。でもスピード感は欲しいじゃない。
真:だから深夜しかないね。
麻:そうね。コースは?
真:外苑西通り。
麻:思ったとおり(笑)。
真:そりゃそのシチュエーションだったらね。
麻:思いっきり車道をね。
真:そう。それしかないねー。帰りも、青山通りでOK。
麻:うーん、私もいままで何回かやってるけど、想像するだけでいい気持ちなんだよね。
真:ぬるっとした風でも許せるのは、それくらいだもんね。
麻:そうね。そして最後はうちに寄って、熱いジャスミンティーで締め。
真:またシャワー貸してくれる?
麻:もちろんよ。着替え忘れないでね。
真:そうそう、去年はさ、シャワーさせてもらって、からだにタオル巻きつけたままあなたのソファーで寝ちゃったよね(笑)。
麻:で、起きたら勝手にトースト焼いてコーヒー淹れてて(笑)。
真:起きてきたあなたに「いかが?」なんて言ってたね(笑)。
麻:あれは呆れたわ。
真:でもさ、都会のフリーの女の最高の贅沢だよ。
麻:あなたは主婦だけどね、それで(笑)。
真:あのときはさすがに怒られた。でもねー、怒られてでもしたいよ、ああいうことは。
麻:まあ私はかまいませんけど(笑)。
真:ああー、なんか今日のベーグルサンドはことのほか美味しいよ。
麻:そうね。でも私はあのときあなたが私に突き出した焦げたトーストの味が思い出されてしょうがないよ、いま(笑)。
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by womenscrossing | 2016-05-06 22:17 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【15】

【第15回】(2016/03/08)

真:いやだ、全然寒くない。
麻:ここのところずっと、こんな感じね。
真:いやだわー。
麻:いやね。
真:寒くない春の始まりなんて、最悪ね。死にたくなるわ。
麻:何のせいかしら。
真:原因なんてなんだっていいよ。とにかく、もうだめだ。
麻:そのわりには……、シナモントーストを食べる食欲はいつもといっしょね。
真:こっちに楽しみを見出すしかないじゃない。だって。
麻:そうよね。
真:空は曇って、空気はよどんで、生[なま]あたたかくて。こんな状況じゃ、外から刺激を入れるしかないじゃない。
麻:それがシナモンか。
真:そ。まあ、甘っちょろい刺激ですけどね。
麻:しかもちょっと女子っぽい。
真:女子でいいよ、もう。何が悪い。
麻:ずいぶんなご機嫌ね(笑)。気持ちはわかるわよ。でも、おもしろいなーって思うの。ちょっと。
真:なにが?
麻:ぱきっと、クールでハードな、変化のためのツールが欲しいのに、選んでるのがシナモントーストとカプチーノなんだから。結局、苦さやぴりっとした感覚――それもちょっとしたものだけど――だけじゃなくて、同時に甘さが必要なんだなっていうのがひとつ。あと、なんかそのチョイスの結果が、逆に、いまのあなたの怒りの対象であるこの陽気と、なんかちょっと近いんじゃないのかなって。
真:シナモンが曇り空の色か。あとカプチーノのもこもこ感……。
麻:ま、そんな感じ。つまりさ、レモネードとかとは真逆じゃない。
真:やー、だって、それはさ。
麻:そう、たしかに、ここでレモネードはね、ちょっとね。
真:ないない。そこはやっぱりさ、ねらったわけじゃないけど、こっちでしょ。
麻:うん。私もそう思う。
真:そういってあんたは結局プレーンスコーンとハーブティーだけどさ。
麻:これは、私なりの、この陽気への抵抗かな。
真:まあね、わからなくはない。でもやっぱりあんたはクールだよ。スコーンには何もつけてないし。
麻:そうね、まあ。
真:ふえっ。そのいやみのないいやみな反応がまたクールで、かなわないね。
麻:私はね、こっちがクールでいることで、よどんだ生あたたかさに負けないようにしたいの。
真:そっか。そうねー。私もね、そりゃそうできればいいよ。
麻:あなたはいいのよ、それで。自分のきらいなものと通じてしまう、でも自分の好きなものを丸ごと飲み干して、それで戦うわけだから、見えない日々の敵と。
真:うん、そうじゃなきゃやってけない。
麻:いいのよ、それで。
真:そっか。あなたがラディッシュのサラダとか食べてるときに、私は春キャベツのクリームスープ作っちゃったりしてるんだ、きっと。
麻:そういうことね。でも私もあなたもそっちのほうがカンファタブルなんだし。
真:うん。そうやって、なんだかわからないけど、なんとか負けないようにやっていくしかない。
麻:そう、だって、私たちにとっては、こんな空や空気や温度は耐えられないんだからね。
真:私は待つよ、晴れて肌寒い午前10時を。意地で。この街で。
麻:そうね。がんばろう。
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by womenscrossing | 2016-03-08 23:50 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【14】

【第14回】(2015/10/30)

麻:あーっ、気持ちいい、この冷たさ。
真:うわー、貫いてくるよ、体を。
麻:たまらないね。
真:生まれ変わるよ。
麻:そこまで?(笑) でもこの感覚がほしいから、この時期の夜に出歩くんだもんね。
真:「寒い」とか言うやつ、信じらんないよ。生きてる醍醐味放棄してる。
麻:ダウンジャケットとか、ありえない。あれは真冬にしょうがなく着るもの。
真:ま、世間からすると、私たちが「無理してる」ってことになるんだろうけど。
麻:さんざん言われてきたしね(笑)。でもこれだけは譲れないね。
真:高校の頃からこうしてさ、この季節の風、この格好で受け止めてきたんだもん。もうこうなったら死ぬまで受けるよ。この「みゆき通り」でさ。
麻:まあ、「みゆき通り」は、今日たまたまここにいるってだけだけどね(笑)。
真:いいじゃん、似合うし。
麻:まあね、久しぶりの二人のディナー。店の外に出たらこの風。たしかにこの通りの広さ、「抜け具合」、交通量が絶妙にちょうどいい感じはあるな。青山通りじゃだめだね。
真:そうでしょ? クリエイターにそう言ってもらって自信ついたよ。
麻:東京ってどんどんディストピアになるけど、この時期の夜のこの通りのこの風、を受けると、ディストピアでもこれだけあればもういい、って気になるよね。
真:なるなる。もうさ、どうせ、街全体がよくなるなんてないんだから、この一瞬、この風、この空気をつかまえないと。それだけだよ、ここで生きてる醍醐味って。
麻:諦めとか開き直りじゃなくてね。ほんとにそれで、それが、幸せだと思ってるよ、私は、ってね。誰にってわけじゃないけど、言いたいよね。
真:そうね。あと何回この風受けられるのかな。ちょっと考えるけど、考えたくない。
麻:……
真:冷たくって泣けてきそうだよ。
麻:もう生暖かいところには行きたくない。
真:もうちょっと歩くか。
麻:コーヒーだけは買うよ。とびきり美味しい豆を、濃く淹れたやつ。
真:そうだ、このときだけはミルクはいらない。
麻:だって、なんかね、自分の存在の濃いい成分を抽出したい気分だから、体に入れるものもそうなるよ。
真:ピュアとかそういう意味じゃなくて、ハードな勝負だね。
麻:そうそう。それであとちょっと外を歩いていられる。
真:いつかは家に戻って、シャワーを浴びるんだけど、でもそれまで、ちょっとでも、身を切って、身から絞り出して、生身を感じたいんだよね。
麻:心身の健康とかさ、どうでもいいんだよ。この風と、意識と、媒介する飲み物があればさ。
真:ほんとは、ちょっとだけチョコも欲しいけどね。カカオ72%のね。
麻:たしかに、ね。でもコンビニには入りたくない。
真:ないない、コンビニ見たくもない(笑)。
麻:あの店、チョコなんて売ってたっけ?
真:ガトーショコラならあるけど……。
麻:じゃあ最悪、それテイクアウトして、歩きながらかぶりつくよ!
真:やった、かっこいい! しよう、それ。
麻:よし、早歩き!
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by womenscrossing | 2015-10-30 23:22 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【13】

【第13回】(2014/09/10)

真:あー、気持ちいいね、最高だね!
麻:やっぱりこの季節の外苑東通りはたまらないね! 自転車乗ってていちばん幸せを感じるよー。
真:ま、私はママチャリだけどね!
麻:ママチャリでも十分気持ちいいでしょ。
真:ちょっとー、そこは「ママじゃないただの主婦なのにママチャリ~?」ってつっこむところでしょ!
麻:しないわよ、そんなつっこみ!
真:あ、要求水準高すぎた?
麻:むしろ低すぎ!
真:あははー、失礼! いやー、でもね、いっつも思うわー、この時間がずっと続けばいいのにーって。
麻:でもやっぱさ、これはキンキンの真っ昼間か、真夜中のどっちかでしょ。
真:そうね、もしくは徹夜明けの朝。
麻:あーそれも捨てがたい(笑)。
真:そんでこのスペシャルな開放感ってさ、なぜか「初秋」でしか味わえないんだよね。
麻:うん、もちろん春の午前10時も、夏の早朝6時もいいんだけど、初秋の午後2時に匹敵するシチュエーションなし!
真:夏が終わる寂しさが云々っていっても、この気持ちよさの魅力を考えれば、全然初秋大歓迎だよね。
麻:ま、それは私たちが年とったってことかもしれないけど。
真:なあにそれー、私たち、初秋マダムってことー?
麻:一応まだ、枯れてはないわよ。
真:そうだけどさー……。まあ、悪くはないか。
麻:悪くない、悪くない。
真:B面の2曲目に入ってる軽めのAORがなぜかいちばん気に入っちゃう感じか。
麻:なに言ってんの?(笑)
真:あれ、わかんない?、いまの。
麻:いや、わからなくはないけど……。
真:あー、説明するのはめんどくさいな。
麻:いいよ、しなくて。わかるから(笑)。
真:うん、さすがだ!(笑) ねえ、やっぱさ、このあと行くのはさ、紅茶でしょ?
麻:もちろん。
真:じゃあ久しぶりにあっちの専門店まで足延ばすか。
麻:そうね。賛成。
真:私、ミントティーにしよー。
麻:私はラベンダーティーかな。
真:あー、ずるい、それ初秋っぽい!
麻:ずるくはないでしょ(笑)。まあ、ちょとベタかな。
真:いいじゃんいいじゃん、ベタやっとかないと。
麻:そうね。あっという間に過ぎちゃう季節、だもんね。
真:季節に色をつけないと、一瞬でも。
麻:ああ、飲み物ってそうだよね。からだをとおして、身の回りの環境に色をつける。
真:そのときだけね。明日になったら消えちゃうの。
麻:この街で季節と同期するには、いちばんいい方法。
真:そう、わたしひとりだけの、誰でもできる魔法ね。
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by womenscrossing | 2014-09-11 00:24 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【12】

【第12回】(2014/08/08)

真:ねえ、今年の夏って、ちょっとなんか空しい感じしない?
麻:いつもより街に人が少なくて寂しいってこと?
真:そういう要素もなくはないけど、なんていうか、人はいても生命力がないというか。
麻:ああ、そういうこと。うん、そういう意味では、年々そんな感じはするかな。
真:夏自体が、ということじゃないんだろうけど。きっと、東京の夏が。
麻:そうなんだろうね。本来夏がもっている力が、東京の街では急速に減退してるみたいな、ね。
真:でさ、すっごい複雑なんだけど、そういう変化を、すっと受け止めている私もいるのよ。
麻:しょうがないっていうふうに?
真:もうちょっと突っ込んでいうなら、そうなるだろうな、と最初からわかっていたような感覚。
麻:必然みたいな。
真:そうね。そして、それはそんなに悪いことじゃないっていう。
麻:むしろそのほうが健全ってことか。
真:んー、そもそもさ、やっぱり、もうこの街に、夏らしさとか生命力とか、期待しちゃいけないんじゃないかな。そういうこと。
麻:まあ、これだけ環境が変化してしまってはね。
真:そう。これまでは、こんな汚い都会でも、思いっきり夏を楽しんでやる、って能天気に思えていたけど、もうそれはない。
麻:ゆるやかに土壌が溶解していくような感じかな。
真:それを見守ってる。過去の都会の夏の思い出が、全部幻みたいに思えてくる。
麻:SFみたいだね。
真:そう、だから、ぼーっとしちゃう。このこと考えると。
麻:いまさら何かを取り戻そうとか思えないね。
真:思えない。あとは見送るしかないね、この街を。
麻:夏の生命力ってやつを感じたくなったらどうする?
真:そしたらどっかに引っ越しちゃうかもね。いつか。ぱっと。
麻:そうだね。それが正しい。
真:そうやってさ、私のなかでの都会を守るんだよ。
麻:どこかでね。
真:そう、どこかで。ここでは守れないね。
麻:見送るだけ見送って、そのあとこんどはこっちが「じゃあね」って。
真:別に誰も見送ってくれなくてもかまわない。
麻:きっとその頃、東京は、なにかを必死で取り戻そうとして、狂騒のイベントやらなんやらやってるよ。
真:そう、そこが潮時だね。
麻:それにつきあうほど死んでないものね、私たちの感覚。
真:ごもっとも。だからこの街の先も見えるし、この街を捨てる私も見える。
麻:ま、せいぜいそれまでは、この都心で、ちょっとアンニュイな滅びの美学にひたってますか(笑)。
真:そう思って笑ってるしかないよね。この「過去の街」、南青山で。
麻:渋谷や新宿にいたらわかんないのかな、この感覚。
真:そりゃわかんないんじゃない? そんなこと感じる必要もないんだよ、きっと。
麻:そうだね。別にどうこう言うつもりはないけど、ああ、わからないんだなあって思っちゃうね。
真:最初から「終わった」感覚からスタートしてるのってさ、案外ラクだよね(笑)。
麻:ある意味では、場所と世代ゆえだけどね。
真:間違ってもラッキーとは言えないけど(笑)。
麻:そう、別に幸も不幸もなく、こういう感覚でしか生きられない。
真:われながらちょっとイヤになることもあるけど(笑)。
麻:まあね。
真:それにしても今日は天気いいね。歩いてて気持ちいい。
麻:天気は夏そのものだね。
真:いますれ違った人たちは、どう思って歩いてたんだろう、この道。
麻:暑いなー、ってだけじゃない?
真:そうか。まあそうだよね。
麻:それはひとつの事実なわけだし。
真:じゃあ私たちもひと休みするか。
麻:そうねー。あと何回この街で夏を過ごすかわからないんだから、たんたんとルーティンをこなしましょ(笑)。
真:じゃあ、せめていつもは頼まないもの頼んじゃおうかな。
麻:熱いエスプレッソとか?
真:あー、それいいね! 退廃的な感じするよ!
麻:しないわよ(笑)。
真:あ、でもさ、たしか夏限定メニューに、エスプレッソを使った冷たいスイーツがあったはずよ。それにしよう。
麻:すでに退廃的を離脱してるじゃないの(笑)。
真:やっぱり欲望には忠実じゃなくっちゃね。こんな街なんだからせめて飲み食いくらいはさ。
麻:はいはい。早く入りましょ。
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by womenscrossing | 2014-08-08 18:09 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【11】

【第11回】(2014/05/11)

真:おはよう。
麻:もう12時よ。
真:わかってるわよ。
麻:どうしたのよ、元気ないわね。まあ珍しいことじゃないけど。
真:えー、わかんないの?
麻:なんでわかんなきゃいけないのよ。長いつきあいだから?
真:そんなありきたりな理由じゃない!
麻:そこで怒らないでよ。話しがややこしくなるから。……ほら、注文。
真:あのね、ガトーショコラとカプチーノ。
麻:何も食べてないの?
真:厚切りのシュガートースト食べてきた。
麻:それでよく食べるわね(笑)。
真:ほっといてよもうー。
麻:はいはい、ごめんなさい。で、何が憂鬱なのよ。
真:だってさ、わかるでしょ、ほら、こんなに晴れててさ、緑がまぶしいんだよ!
麻:あ、そうか、あなたは新緑の前が好きなんだもんね。
真:そう。
麻:でも新緑が嫌いなんじゃないんでしょ?
真:もちろん。でも、だからこそ、つらいのよ。美しい新緑がばーっと目に入ってくるのがさ。
麻:あいかわらずアーティストだね、感覚が。全然わからない。
真:そうやってばかにしないでよ、クリエイター!
麻:へんなキレかたしないでよ。恥ずかしいじゃない。
真:あー、いやだ。
麻:わかったわよ。冷静に考えてみるわね。えーっと、桜が散るのが寂しいから満開の桜を見るのがつらいって感覚はたぶんそんな珍しくないと思うから……。でも、新緑は散らないもんね……。
真:そう、その逆でさ、ちょっと見ない間にさ、なんか違う生き物みたいにさ、こう、うわーっとなって。
麻:すごい生命力だもんね。梅雨の頃とか、一気に葉が濃くなって、みっしりとした木になって。
真:そう、なんかそれがね、その驚きがね、ショックなのよ。
麻:自分という存在を凌駕していってしまう感じ?
真:というか、ペースがね。
麻:早すぎる?
真:早い遅いというか、私になんの断りもなしに、っていうのが。
麻:どうやって断るのよ(笑)。
真:なんかあるはずじゃない、兆候がさ。
麻:いや、それはあるんじゃない?、実際。
真:私が気づいてないだけ?
麻:そうそう。たぶん
真:じゃああなた気づいてるの?
麻:いいえ。
真:じゃあ無理よ、私になんて。そもそもあなた新緑の季節がいちばん好きなんでしょ?
麻:そうよ。
真:じゃあなんで私みたいに感じないのよ!
麻:そんなこと言ったって。
真:冷静すぎるじゃない。はしゃぐでもなく、私みたいに焦ったり戸惑ったりすることもなく。
麻:うーん。私、そこまでセンシティブじゃないからね……。単純に、生命の始動する感触を共有できる感じが好きなだけで……。
真:そんなの無責任だよ。
麻:えー、そんな責任もたなきゃいけないの!
真:そうだよ。そんなの、自然に対して無責任だよ。
麻:んー、そう言われたら、そうですかとしか言えないけど……。
真:なんかさ、別にさ、もっとシリアスになれとか、スピリチュアルになれとかじゃなくってさ、別におおらかでシンプルでいいんだけどさ、なんかさ、ぴしっと、こう、合わせる意識をしてみてほしいんだよね、ペースというか、リズムを。
麻:自然と?
真:そう。自然って、おおげさだけど。あくまで、自分の目の前にある自然の呼吸とね。
麻:あー、なんとなくわかってきたよ、それ。
真:わかる?
麻:自然全体と交感するなんて不可能だし不遜な態度だけど、自分が関わっている自然とは、接している限り、わかろうとする責任があるよね。
真:ある。
麻:自分が環境関係とかの人間でなくてもね。
真:むしろないからこそ。
麻:うん。いやー、それ、他の人を説得できる自信はないけど、わかるわ。
真:いいのよ、あなたさえわかってれば。
麻:うん。また、あなたに教えられたわ。
真:やめてよ。こんなガトーショコラにがっついてカプチーノで流し込んでる女つかまえてさ。
麻:たしかにこんな女がそんな深いこと考えてるとはね(笑)。
真:このカプチーノ、泡が多いんだよ、もう!
麻:そういう飲み物じゃない(笑)……。あなたにとっては、新緑の木もカプチーノの泡も、みんな自分に断りもなしに自分を驚かせるのね。
真:いっつもこう。あーあ、楽しいね、今日は。
麻:うんうん、いい日だ。
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by womenscrossing | 2014-05-11 01:33 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【10】

【第10回】(2014/02/27)

真:来たねー、春前夜!
麻:あなたがいちばん好きな季節ね。
真:そう。早春より早い春。
麻:早春になっちゃったらもう興ざめ、ってね(笑)。
真:うんうん、当然でしょ(笑)。
麻:あなたのその万事先どり精神、いつもこの時期にうらやましく思うわ。
真:なにそれー。皮肉?
麻:そんなわけないじゃない、本気で言ってるのよ。
真:そんなこと言ったらさ、あなたがいちばん好きな季節は新緑の候でしょ。いいよね。結局さ、落ち着いた都会の女の理想的なセンスよ、それ。
麻:皮肉言ってるのはあんたじゃない(笑)。
真:だってさー、それは誰が聞いたってそう言うよ。
麻:たまたまよ。
真:そこがさ、たんなる主婦と自立したクリエイターの違いだよね。ただ人の関心の先回りして喜んでる女と、みんなが浮かれたあとに来る新しい生命の兆しにそっと心を寄せる女との。
麻:いつもながら大げさね。
真:だってそうだもん!
麻:わかったわよ(笑)。まあいいじゃない、せっかく抜群な気候条件の「春前夜」を楽しんでるんだからさ。
真:はーい。でも今日は本当にいい気分。ちょっと肌寒くて、空は冴えてて、風も吹いてて。
麻:マフラーをとると首筋が冷やっとする、この感じね。
真:そうー。そしてマグに入った、ちょっとぬるくなったレモンティー。
麻:甘いやつ?
真:私はね、甘いのがいいの。あなたどうせ、ノンシュガーのハーブティーでございましょ(笑)?
麻:ご名答。特別な意味なんてありませんよ。もう皮肉はNG。
真:えっへっへ。もう気の利いた言葉が浮かばない。
麻:言うつもりだったの? あきれた人(笑)。
真:あ、見て、あのジョギングしている人、あんなに薄着。
麻:あー。もうあれくらいでもいけるんだね。
真:いやー、でも信じられないよ、まだそこまであったかくないよ。
麻:だからさ、スポーツする人はスポーツする人なりに、春を先どりするとああなるんだよ。身体条件の前提が違うだけでさ、気分は私たちと同じなのよ。
真:うわ!、いやーだ、やっぱインテリは考えることが違う。劣等感。
麻:やめてよもう(笑)。
真:そんなリベラルな想像力、私は持ちあわせてないもん! 私はしょせん甘いレモンティー飲んで満足してる女だもん!
麻:なにわけのわかんないキレかたしてるのよー。困った人ね。
真:いいよいいよ、そうやってばかにすればさ。
麻:もうだめだ、ついていけない(笑)。あんたの頭の中はさ、あのジョギングしているおじさんの100倍高速走行してるんだよ。それでいいじゃん、もう。
真:うん、わかった。それでいい。なんだか自信ついた。
麻:あ、それでいいんだ(笑)。あー、よかった。
真:わかったからさ、そっちのハーブティーひと口ちょうだいよ。口の中甘くなっちゃった。
麻:なによそれ……。
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by womenscrossing | 2014-02-27 00:06 | [連載]南青山五丁目午前十時

南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【9】

【第9回】(2014/01/20)

真:ねえ、ちょっと、これ散歩するには寒すぎじゃない?
麻:なに言ってるのよ、若い頃はあなただってこのくらいの寒さがいちばん気持ちいいって言ってたじゃない。いつからそんなおトシになっちゃったのよ。
真:そりゃ、いまだって、気分的にはそうなんだけどさ。カラダが追いついてこない。
麻:情けないわね。
真:主婦になるとこんなもんよ。
麻:あっさり負けを認めないでよ。もうちょっとがんばってよ。
真:そうね。昔はさ、雪が降った日の夜は絶対散歩したよね。もう雪が凍っちゃってる上をざくざく歩いて。
麻:そう、あんたはよくこけてた。
真:運動神経悪いくせにそういうの好きだからね。
麻:やっぱりさ、ずーっと都会に生きてる女はさ、どこかで自然に戻らなきゃいけないのよ、絶対。その機会がこれ、厳冬だと思うのね。
真:またー。クリエイターはすぐ理屈をつける。たんに冷たい空気が好きだってだけじゃない、私たち。
麻:うんうん、そうです。そのとおり。またさ、この時期がいいんだよね。
真:それあんた、毎年言ってる。クリスマスの街はイヤ、正月休みの街はイヤ、なんでもないただの寒い冬の夜がイイって。
麻:だってしょうがないじゃない、子どもの頃からずーっとそうなんですから。あなただって同じでしょ?
真:まあね。人も街も、日常がそのまんま冷凍保存されて、私たちだけがそれを独り占めしてる、そんな幻想をもてちゃうような、この時期の寒い夜は好きよ。
麻:あら、クリエイターっぽいこと言った。
真:からかわないでよ、いやあね。
麻:失礼。でもさ、今朝の雪、全然積もらなかったね。
真:それくらいでいいよ。どっさり積もったらさ、みんな「すげー」とか言って喜ぶじゃん。だからイヤ。
麻:おとなげない!
真:そうよ、悪い? 私がこういう性格だって、あんた昔から知ってるでしょ?
麻:はいはい。あなたらしいわ。そしてちょっとわかる。
真:私ね、街の景色や人の気配がさ、「何かが変わる!」みたいな感じになってると、とたんに興ざめしちゃうのよ。「あ、私はそれけっこうです」って。雪が降っても結局積もりもせず、中途半端に路肩が凍るだけで、ただ寒くて星だけが無駄に光ってて、人も少なくて、街の光も心細い。そんな、ちょっと空しい気配が、いちばん私の心を救ってくれるの。なんていうか……。
麻:「ああ、やった、街も人も私を救わない!」って実感できるから、でしょ?
真:そのとおり。さすがあなた。
麻:だって、それは私も共有しているもの。あなたほど大人げなくひねくれてないけど。
真:悪かったわね。
麻:しょうがないじゃん、この街で暮らしてるんだもん。
真:でもダンナは全然わかってくれないよ、この感覚。
麻:そりゃそうよ。あんたと私くらいだ、こんな物好きで素直じゃなくて、特異体質な女は。
真:でもたまに不安になる。これスノッブすぎるのかな?って。
麻:だいじょうぶ。本当のスノッブって、格が違うから(笑)。
真:ありがとう(笑)。そうよね。この中途半端さがさすが私。積もりそこなった雪と同じ(笑)。
麻:そう、自信もっていい。あんたは所詮路肩の氷(笑)。
真:やあーだー(笑)。
麻:あっはは。ちょっと大声出しすぎ!(笑)
真:さて。もうここまで来た。今日はコーヒー、中で飲んでく? テイクアウトで飲みながら歩く?
麻:ばかなこと訊かないでよ。決まってんじゃん、そんなの。あんたの考えと一緒よ。
真:はーい。……すみませーん、カフェラテのMサイズを2つ、持ち帰りで! 砂糖は要りません!
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by womenscrossing | 2014-01-20 00:18 | [連載]南青山五丁目午前十時