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南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【15】

【第15回】(2016/03/08)

真:いやだ、全然寒くない。
麻:ここのところずっと、こんな感じね。
真:いやだわー。
麻:いやね。
真:寒くない春の始まりなんて、最悪ね。死にたくなるわ。
麻:何のせいかしら。
真:原因なんてなんだっていいよ。とにかく、もうだめだ。
麻:そのわりには……、シナモントーストを食べる食欲はいつもといっしょね。
真:こっちに楽しみを見出すしかないじゃない。だって。
麻:そうよね。
真:空は曇って、空気はよどんで、生[なま]あたたかくて。こんな状況じゃ、外から刺激を入れるしかないじゃない。
麻:それがシナモンか。
真:そ。まあ、甘っちょろい刺激ですけどね。
麻:しかもちょっと女子っぽい。
真:女子でいいよ、もう。何が悪い。
麻:ずいぶんなご機嫌ね(笑)。気持ちはわかるわよ。でも、おもしろいなーって思うの。ちょっと。
真:なにが?
麻:ぱきっと、クールでハードな、変化のためのツールが欲しいのに、選んでるのがシナモントーストとカプチーノなんだから。結局、苦さやぴりっとした感覚――それもちょっとしたものだけど――だけじゃなくて、同時に甘さが必要なんだなっていうのがひとつ。あと、なんかそのチョイスの結果が、逆に、いまのあなたの怒りの対象であるこの陽気と、なんかちょっと近いんじゃないのかなって。
真:シナモンが曇り空の色か。あとカプチーノのもこもこ感……。
麻:ま、そんな感じ。つまりさ、レモネードとかとは真逆じゃない。
真:やー、だって、それはさ。
麻:そう、たしかに、ここでレモネードはね、ちょっとね。
真:ないない。そこはやっぱりさ、ねらったわけじゃないけど、こっちでしょ。
麻:うん。私もそう思う。
真:そういってあんたは結局プレーンスコーンとハーブティーだけどさ。
麻:これは、私なりの、この陽気への抵抗かな。
真:まあね、わからなくはない。でもやっぱりあんたはクールだよ。スコーンには何もつけてないし。
麻:そうね、まあ。
真:ふえっ。そのいやみのないいやみな反応がまたクールで、かなわないね。
麻:私はね、こっちがクールでいることで、よどんだ生あたたかさに負けないようにしたいの。
真:そっか。そうねー。私もね、そりゃそうできればいいよ。
麻:あなたはいいのよ、それで。自分のきらいなものと通じてしまう、でも自分の好きなものを丸ごと飲み干して、それで戦うわけだから、見えない日々の敵と。
真:うん、そうじゃなきゃやってけない。
麻:いいのよ、それで。
真:そっか。あなたがラディッシュのサラダとか食べてるときに、私は春キャベツのクリームスープ作っちゃったりしてるんだ、きっと。
麻:そういうことね。でも私もあなたもそっちのほうがカンファタブルなんだし。
真:うん。そうやって、なんだかわからないけど、なんとか負けないようにやっていくしかない。
麻:そう、だって、私たちにとっては、こんな空や空気や温度は耐えられないんだからね。
真:私は待つよ、晴れて肌寒い午前10時を。意地で。この街で。
麻:そうね。がんばろう。
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by womenscrossing | 2016-03-08 23:50 | [連載]南青山五丁目午前十時