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南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【14】

【第14回】(2015/10/30)

麻:あーっ、気持ちいい、この冷たさ。
真:うわー、貫いてくるよ、体を。
麻:たまらないね。
真:生まれ変わるよ。
麻:そこまで?(笑) でもこの感覚がほしいから、この時期の夜に出歩くんだもんね。
真:「寒い」とか言うやつ、信じらんないよ。生きてる醍醐味放棄してる。
麻:ダウンジャケットとか、ありえない。あれは真冬にしょうがなく着るもの。
真:ま、世間からすると、私たちが「無理してる」ってことになるんだろうけど。
麻:さんざん言われてきたしね(笑)。でもこれだけは譲れないね。
真:高校の頃からこうしてさ、この季節の風、この格好で受け止めてきたんだもん。もうこうなったら死ぬまで受けるよ。この「みゆき通り」でさ。
麻:まあ、「みゆき通り」は、今日たまたまここにいるってだけだけどね(笑)。
真:いいじゃん、似合うし。
麻:まあね、久しぶりの二人のディナー。店の外に出たらこの風。たしかにこの通りの広さ、「抜け具合」、交通量が絶妙にちょうどいい感じはあるな。青山通りじゃだめだね。
真:そうでしょ? クリエイターにそう言ってもらって自信ついたよ。
麻:東京ってどんどんディストピアになるけど、この時期の夜のこの通りのこの風、を受けると、ディストピアでもこれだけあればもういい、って気になるよね。
真:なるなる。もうさ、どうせ、街全体がよくなるなんてないんだから、この一瞬、この風、この空気をつかまえないと。それだけだよ、ここで生きてる醍醐味って。
麻:諦めとか開き直りじゃなくてね。ほんとにそれで、それが、幸せだと思ってるよ、私は、ってね。誰にってわけじゃないけど、言いたいよね。
真:そうね。あと何回この風受けられるのかな。ちょっと考えるけど、考えたくない。
麻:……
真:冷たくって泣けてきそうだよ。
麻:もう生暖かいところには行きたくない。
真:もうちょっと歩くか。
麻:コーヒーだけは買うよ。とびきり美味しい豆を、濃く淹れたやつ。
真:そうだ、このときだけはミルクはいらない。
麻:だって、なんかね、自分の存在の濃いい成分を抽出したい気分だから、体に入れるものもそうなるよ。
真:ピュアとかそういう意味じゃなくて、ハードな勝負だね。
麻:そうそう。それであとちょっと外を歩いていられる。
真:いつかは家に戻って、シャワーを浴びるんだけど、でもそれまで、ちょっとでも、身を切って、身から絞り出して、生身を感じたいんだよね。
麻:心身の健康とかさ、どうでもいいんだよ。この風と、意識と、媒介する飲み物があればさ。
真:ほんとは、ちょっとだけチョコも欲しいけどね。カカオ72%のね。
麻:たしかに、ね。でもコンビニには入りたくない。
真:ないない、コンビニ見たくもない(笑)。
麻:あの店、チョコなんて売ってたっけ?
真:ガトーショコラならあるけど……。
麻:じゃあ最悪、それテイクアウトして、歩きながらかぶりつくよ!
真:やった、かっこいい! しよう、それ。
麻:よし、早歩き!
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by womenscrossing | 2015-10-30 23:22 | [連載]南青山五丁目午前十時