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南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【12】

【第12回】(2014/08/08)

真:ねえ、今年の夏って、ちょっとなんか空しい感じしない?
麻:いつもより街に人が少なくて寂しいってこと?
真:そういう要素もなくはないけど、なんていうか、人はいても生命力がないというか。
麻:ああ、そういうこと。うん、そういう意味では、年々そんな感じはするかな。
真:夏自体が、ということじゃないんだろうけど。きっと、東京の夏が。
麻:そうなんだろうね。本来夏がもっている力が、東京の街では急速に減退してるみたいな、ね。
真:でさ、すっごい複雑なんだけど、そういう変化を、すっと受け止めている私もいるのよ。
麻:しょうがないっていうふうに?
真:もうちょっと突っ込んでいうなら、そうなるだろうな、と最初からわかっていたような感覚。
麻:必然みたいな。
真:そうね。そして、それはそんなに悪いことじゃないっていう。
麻:むしろそのほうが健全ってことか。
真:んー、そもそもさ、やっぱり、もうこの街に、夏らしさとか生命力とか、期待しちゃいけないんじゃないかな。そういうこと。
麻:まあ、これだけ環境が変化してしまってはね。
真:そう。これまでは、こんな汚い都会でも、思いっきり夏を楽しんでやる、って能天気に思えていたけど、もうそれはない。
麻:ゆるやかに土壌が溶解していくような感じかな。
真:それを見守ってる。過去の都会の夏の思い出が、全部幻みたいに思えてくる。
麻:SFみたいだね。
真:そう、だから、ぼーっとしちゃう。このこと考えると。
麻:いまさら何かを取り戻そうとか思えないね。
真:思えない。あとは見送るしかないね、この街を。
麻:夏の生命力ってやつを感じたくなったらどうする?
真:そしたらどっかに引っ越しちゃうかもね。いつか。ぱっと。
麻:そうだね。それが正しい。
真:そうやってさ、私のなかでの都会を守るんだよ。
麻:どこかでね。
真:そう、どこかで。ここでは守れないね。
麻:見送るだけ見送って、そのあとこんどはこっちが「じゃあね」って。
真:別に誰も見送ってくれなくてもかまわない。
麻:きっとその頃、東京は、なにかを必死で取り戻そうとして、狂騒のイベントやらなんやらやってるよ。
真:そう、そこが潮時だね。
麻:それにつきあうほど死んでないものね、私たちの感覚。
真:ごもっとも。だからこの街の先も見えるし、この街を捨てる私も見える。
麻:ま、せいぜいそれまでは、この都心で、ちょっとアンニュイな滅びの美学にひたってますか(笑)。
真:そう思って笑ってるしかないよね。この「過去の街」、南青山で。
麻:渋谷や新宿にいたらわかんないのかな、この感覚。
真:そりゃわかんないんじゃない? そんなこと感じる必要もないんだよ、きっと。
麻:そうだね。別にどうこう言うつもりはないけど、ああ、わからないんだなあって思っちゃうね。
真:最初から「終わった」感覚からスタートしてるのってさ、案外ラクだよね(笑)。
麻:ある意味では、場所と世代ゆえだけどね。
真:間違ってもラッキーとは言えないけど(笑)。
麻:そう、別に幸も不幸もなく、こういう感覚でしか生きられない。
真:われながらちょっとイヤになることもあるけど(笑)。
麻:まあね。
真:それにしても今日は天気いいね。歩いてて気持ちいい。
麻:天気は夏そのものだね。
真:いますれ違った人たちは、どう思って歩いてたんだろう、この道。
麻:暑いなー、ってだけじゃない?
真:そうか。まあそうだよね。
麻:それはひとつの事実なわけだし。
真:じゃあ私たちもひと休みするか。
麻:そうねー。あと何回この街で夏を過ごすかわからないんだから、たんたんとルーティンをこなしましょ(笑)。
真:じゃあ、せめていつもは頼まないもの頼んじゃおうかな。
麻:熱いエスプレッソとか?
真:あー、それいいね! 退廃的な感じするよ!
麻:しないわよ(笑)。
真:あ、でもさ、たしか夏限定メニューに、エスプレッソを使った冷たいスイーツがあったはずよ。それにしよう。
麻:すでに退廃的を離脱してるじゃないの(笑)。
真:やっぱり欲望には忠実じゃなくっちゃね。こんな街なんだからせめて飲み食いくらいはさ。
麻:はいはい。早く入りましょ。
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by womenscrossing | 2014-08-08 18:09 | [連載]南青山五丁目午前十時