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南青山五丁目午前十時――真利子と麻美のふたり話し【11】

【第11回】(2014/05/11)

真:おはよう。
麻:もう12時よ。
真:わかってるわよ。
麻:どうしたのよ、元気ないわね。まあ珍しいことじゃないけど。
真:えー、わかんないの?
麻:なんでわかんなきゃいけないのよ。長いつきあいだから?
真:そんなありきたりな理由じゃない!
麻:そこで怒らないでよ。話しがややこしくなるから。……ほら、注文。
真:あのね、ガトーショコラとカプチーノ。
麻:何も食べてないの?
真:厚切りのシュガートースト食べてきた。
麻:それでよく食べるわね(笑)。
真:ほっといてよもうー。
麻:はいはい、ごめんなさい。で、何が憂鬱なのよ。
真:だってさ、わかるでしょ、ほら、こんなに晴れててさ、緑がまぶしいんだよ!
麻:あ、そうか、あなたは新緑の前が好きなんだもんね。
真:そう。
麻:でも新緑が嫌いなんじゃないんでしょ?
真:もちろん。でも、だからこそ、つらいのよ。美しい新緑がばーっと目に入ってくるのがさ。
麻:あいかわらずアーティストだね、感覚が。全然わからない。
真:そうやってばかにしないでよ、クリエイター!
麻:へんなキレかたしないでよ。恥ずかしいじゃない。
真:あー、いやだ。
麻:わかったわよ。冷静に考えてみるわね。えーっと、桜が散るのが寂しいから満開の桜を見るのがつらいって感覚はたぶんそんな珍しくないと思うから……。でも、新緑は散らないもんね……。
真:そう、その逆でさ、ちょっと見ない間にさ、なんか違う生き物みたいにさ、こう、うわーっとなって。
麻:すごい生命力だもんね。梅雨の頃とか、一気に葉が濃くなって、みっしりとした木になって。
真:そう、なんかそれがね、その驚きがね、ショックなのよ。
麻:自分という存在を凌駕していってしまう感じ?
真:というか、ペースがね。
麻:早すぎる?
真:早い遅いというか、私になんの断りもなしに、っていうのが。
麻:どうやって断るのよ(笑)。
真:なんかあるはずじゃない、兆候がさ。
麻:いや、それはあるんじゃない?、実際。
真:私が気づいてないだけ?
麻:そうそう。たぶん
真:じゃああなた気づいてるの?
麻:いいえ。
真:じゃあ無理よ、私になんて。そもそもあなた新緑の季節がいちばん好きなんでしょ?
麻:そうよ。
真:じゃあなんで私みたいに感じないのよ!
麻:そんなこと言ったって。
真:冷静すぎるじゃない。はしゃぐでもなく、私みたいに焦ったり戸惑ったりすることもなく。
麻:うーん。私、そこまでセンシティブじゃないからね……。単純に、生命の始動する感触を共有できる感じが好きなだけで……。
真:そんなの無責任だよ。
麻:えー、そんな責任もたなきゃいけないの!
真:そうだよ。そんなの、自然に対して無責任だよ。
麻:んー、そう言われたら、そうですかとしか言えないけど……。
真:なんかさ、別にさ、もっとシリアスになれとか、スピリチュアルになれとかじゃなくってさ、別におおらかでシンプルでいいんだけどさ、なんかさ、ぴしっと、こう、合わせる意識をしてみてほしいんだよね、ペースというか、リズムを。
麻:自然と?
真:そう。自然って、おおげさだけど。あくまで、自分の目の前にある自然の呼吸とね。
麻:あー、なんとなくわかってきたよ、それ。
真:わかる?
麻:自然全体と交感するなんて不可能だし不遜な態度だけど、自分が関わっている自然とは、接している限り、わかろうとする責任があるよね。
真:ある。
麻:自分が環境関係とかの人間でなくてもね。
真:むしろないからこそ。
麻:うん。いやー、それ、他の人を説得できる自信はないけど、わかるわ。
真:いいのよ、あなたさえわかってれば。
麻:うん。また、あなたに教えられたわ。
真:やめてよ。こんなガトーショコラにがっついてカプチーノで流し込んでる女つかまえてさ。
麻:たしかにこんな女がそんな深いこと考えてるとはね(笑)。
真:このカプチーノ、泡が多いんだよ、もう!
麻:そういう飲み物じゃない(笑)……。あなたにとっては、新緑の木もカプチーノの泡も、みんな自分に断りもなしに自分を驚かせるのね。
真:いっつもこう。あーあ、楽しいね、今日は。
麻:うんうん、いい日だ。
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by womenscrossing | 2014-05-11 01:33 | [連載]南青山五丁目午前十時